チビクワガタ
マメクワガタ
兵庫県ではチビクワガタ(Figulus binodulus)とマメクワガタ(Figulus punctatus)の2種類が生息しています。マメクワガタが県下でもかなり限定的な分布になっているのに対し、チビクワガタは県内のほぼ全域に生息しています。
チビクワガタ Figulus binodulus
チビクワガタを初めて見た時のことはあまり覚えていません。それぐらいに兵庫では身近なクワガタムシです。中学時代にとあるクラスメイトから、カブトムシと本種が入った紙コップを手渡されたのが覚えている中での一番古い記憶でしょうか。
兵庫県版レッドデータブックにて地域限定貴重種(淡路:Cランク)に指定されているとの情報もありますが、2012年に「全県的に見て絶滅の危機はないと判断」という理由で除外されています。(因みに兵庫県版レッドリストでの地域限定貴重種という区分は2022年にカテゴリーごと削除)
主に湿り気のある白色腐朽材に複数頭でコロニーを作っていますが、夏季に樹液木や外灯下で見かけることもあります。意外と活発で何もない地面を歩いていることもあるため、一般人でも目にする機会があります。(もっともクワガタとしては認知されず)
山地で見つかることはまずなく、主に平地の湿潤な広葉樹林に生息しています。見つかる環境は周りに池や川等の水辺があることが多く、好む環境はヒラタクワガタと同じような気もしますね。
某海峡大橋付近の公園では昔からいるようです。
原則として越冬は成虫で行うようで、幼虫は初夏〜秋にかけての短い期間にのみ見られるとのこと。冬〜春にしか材採集をしない筆者が、成虫しか見たことがないのも合点がいきます。
分布が西日本に集中しており暖地性の種類ともされていますが、毎年厳しい寒さ(-7〜-9℃)になる兵庫地元でも多産しているため寒さに弱い訳ではないようです。(むしろ強いのでは)
また、種として肉食の傾向があるようで複数まとめ飼いしているケースに死んで間もない幼虫等を置くと、接地部から徐々に齧られていきます。
狙って採りたくば材採集が基本となりますが、小さな枝材〜太い倒木材までにいたりいなかったりするため、掴みどころはあまりないです。生息密度が高い場所では割と簡単に出ます。
↑倒木の下より (2022.11/14 自宅前)
↑朽木内のコロニー (2022.11/26 自宅近辺)
↑立ち枯れの3m地点から (2022.12/11 市街地近郊)
↑朽木から抜け出す個体 (2022.6/16 市街地近郊)
↑樹液木にいることもある (2022.6/18 市街地近郊)
↑夜間に徘徊する個体 (2022.6/26 市街地近郊)
↑真昼間でも徘徊する (2023.6/25 市街地近郊)
↑蛹室に留まる個体 (2023.11/12 岡山離島 )
全て発見時の状態での撮影。
マメクワガタ Figulus punctatus
チビクワガタに酷似していますが、更に一回り程小型です。
県下で局所的に生息する珍種であり、南方から黒潮に流され流木と共に漂着したものと見られています。
兵庫県版レッドデータブックではCランク(準絶滅危惧種相当)に指定されています。(2023.12中旬現在)
兵庫では主に東西2ヶ所の島嶼で確認されており、例に漏れず材採集が基本となります。腐朽の進んだウバメガシ材等から得られますが、生息している島嶼内でも密度が薄く、西部離島ではかなりの苦戦を強いられました。
生態はおおよそチビと同じですが、真冬でも幼虫を観察できるのは種として決定的に異なる点です。(恐らくは年中発生しているもの)
当てるとボロボロ出てくるイメージのチビとは違い、成虫が連続して出てくることは少ないです。
更に肉食性が強いらしく、筆者宅でも成虫を同じ容器で複数頭管理していたところ共食いで1頭ずつ減っていくという事態が発生しました。(チビだとこうはならない)
↑初採集個体 (2022.12/27 東部離島)
↑成虫 (2022.12/27 東部離島)
↑3齢幼虫 (2022.12/27 東部離島)
↑単独の成虫 (2022.12/27 東部離島)
↑2齢&3齢幼虫 (2023.2/12 東部離島)
↑2齢と思われる幼虫達 (2023.11/26 西部離島)
↑若齢幼虫 (2023.11/26 西部離島)
↑発生木の外観 (2023.11/26 西部離島)
↑持ち帰った材破片より (2023.11/26 西部離島)
↑硬い材にいることも (2023.5/5 和歌山某島)
・形態
双方名前も姿も似たり寄ったりで、混同されることもしばしばありますが違いはしっかりとあります。
判別方法は人によって異なることもありますが、ここでは個人的に判別ポイントとしている点を4つ紹介していきます。見ていきましょう(強制)
1.サイズ
上の写真ではチビクワガタ(左)が14.5㎜、マメクワガタ(右)が11.2㎜とどちらもその種の並サイズですが比べると一回り程差があります。(書籍ではチビ9.0〜16.0㎜ マメ8.0〜12.0㎜)
双方の採集時においても見逃す、または見失う確率が高いのは断然マメクワガタであり材のチェック時にはより慎重性を問われます。
和歌山等の生息域が被っている場所では「8〜12㎜まではマメの可能性、それ以降はチビである可能性が高い」という考え方もできますが、個体差という厄介なものもある為、他の要素と合わせて判断するのが無難です。
2.点刻の密度
マメチビ
見比べて何か気付く点はないでしょうか。
双方の背中に針でチクチクとしたような点(点刻)がありますが、その密度に差があります。(画質悪)
マメクワガタの点刻が全体的に疎らであるのに対し、チビクワガタは明確に点刻の無い部分が存在し滑らかなツヤが目立ちます。
↓見比べてみましょう↓
チビ1
チビ2
チビ3
マメ1
マメ2
マメ3(画質悪)
全て別個体です。
3.前胸背板後縁の鋸歯状突起の有無
↑まずクワガタムシの前胸背板
↑続いて後縁ですが、今回見る場所はこの部分。要はここにギザギザがあるかないかで判別できるということです。
↑微かにギザついているのがマメクワガタ(画質悪)
↑ツルツルしているのがチビクワガタ
肉眼では若干厳しいかもしれません。
4.大顎
大顎の差異でこの2種に触れている文献を見たことがありませんが、個人的に判別ポイントの1つになるのではないかと考えています。
それなりの個体数を観察してきましたが、マメクワガタよりもチビクワガタの方が大顎の比率が大きく内歯がより発達しているように思います。
↑マメ
↑チビ
マメクワガタの内歯がほんの小さな突起であり観察には顕微鏡を用いる必要性が出てくることに対し、チビクワガタの内歯はiPhoneカメラでも確認でき大顎中央より先端寄りに位置しているのが見て取れます。また、大顎全体が上方に反ったヘラ状であることも確認できます。
?.番外編
↑マメと同じようなサイズのチビもいるが…
↑点刻や顎に注目 (ギザは遠目だとほぼ見えない)
もう分かりますよね
・おわりに
初投稿ではチビクワガタとマメクワガタという、東日本ではあまり馴染みのないクワガタムシを取り上げました。マメクワガタは厳しいですが、兵庫県でのチビクワガタは普通種と呼べる存在です。
双方とも外見での雌雄差が無いに等しくサイズも2cm未満、体色もほぼ黒一色とクワガタとしての魅力を感じ難い種類です。しかし注目すべきはその生態であり、親と子が同じ朽木で生活する亜社会性昆虫に分類される他、海流により分布を広げたとされるものも存在する異質なクワガタムシです。また国内では大東諸島、硫黄島、小笠原諸島に近縁種が分布している他、Figulus属全体では東南アジアからオセアニア、更にはアフリカ近辺にまで分布しているようです。
初めての記事投稿でしたが、途中で語彙が消失している自覚がありました。また、Figulus属を取り上げるにあたって顕微鏡を持ち合わせていなかった為、粗い写真ばかりになってしまったのが反省点です。次の投稿がいつになるかは分かりませんが、その時はもう少し情報がまとまった記事を書きたいと考えています。
長々とした記事になってしまいましたが、最後までご覧頂きありがとうございました。